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特許ポートフォリオは何のために作る?活用例を挙げて解説

特許ポートフォリオ(IPランドスケープ)とは?

企業は特許権をはじめとした知的財産権により、自社の商品・サービスを保護しています。

特許出願は、数が多ければよいわけではありません。

自社と第三者の特許権の関係性を明確にし、特許網を築くことが重要です。

その特許網構築の際に、それぞれの特許権を分類するために作成するのが特許ポートフォリオです。

本記事では、特許ポートフォリオ・パテントマップの作り方、マネジメント方法、それらを基にした特許戦略の立て方(IPランドスケープ)などについてまとめました。

自社の商品・サービスについて、特許出願をしているけれどうまく活用しきれていないと悩んでいる人は、本記事を参考にしてみてください。

特許ポートフォリオとは何か

特許ポートフォリオは、企業が出願・保有する特許網をまとめたものです。

特許の件数や技術・製品分野、出願・登録年などで分類して管理します。

また自社の知財権の管理・活用方法を検討する際、特許ポートフォリオ以外に触れるキーワードとして

  • パテントマップ
  • IPランドスケープ

があります。

これら3つは別物で、パテントマップは、自社の出願・保有特許を管理・分析しやすいように作成するマップ(表)です。

IPランドスケープは、パテントマップにより可視化された情報を基に、自社の特許権の活用方法・知財戦略を検討するプロセスです。

IPランドスケープにより、自社にとって必要な分野・領域における特許出願・維持が促進されます。

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出願・権利化後に活用できている特許権は少ない?

出願・権利化された特許権のうち、自社により利用されている割合は約50%です。

権利化された特許権を保有し続けるには、年金を納付し続ける必要があります。

利用されていない、年金だけが支払われている特許権を活用するために、特許ポートフォリオ・パテントマップの作成・管理が有用でしょう。

なお日本では、毎年約30万件の特許出願が行われています。

特許出願の審査請求件数は、毎年約23万件であり、そのうち特許査定される割合は約75%です。

企業によっては、出願を行った特許のうち、権利化後の自社の利用率が30%以下であることも少なくないのです。

特許ポートフォリオ・パテントマップを作る目的

特許ポートフォリオ・パテントマップによる自社特許の分類は、実践してみると難しいものです。

なぜなら、説明したい相手や目的に応じて指標を使い分けなければならないからです。

パテントマップ作成の目的として

  • 自社の各事業における出願状況を把握する
  • 各企業における開発テーマごとの出願件数を比較する
  • 自社による発明の実施の有無を確認する

が挙げられます。

作成例を用いながら、詳細をご説明します。

自社の各事業における出願状況を把握する

自社が複数の事業を行っている場合

  • それぞれの事業においてどのくらい特許出願を行っているか
  • 各事業の出願が互いにどのように関連しているか

などの可視化が必要です。

旭化成株式会社を例に、どのようなパテントマップを作成できるか見てみましょう。

旭化成株式会社では、触媒・プロセス、高分子・加工、繊維・不織布など様々な技術に関する事業を展開しています。

各事業において特許出願を行っており、事業ごとの出願件数の分布を示しているのが下図です。

出典:旭化成グループ 知的財産報告書 2020

一目でどの事業に関する出願件数が多いかが分かるだけでなく、どの事業同士の関連性が高いのかを推察できるのが上図の特徴です。

例えば、触媒・プロセス技術(緑色丸部分)はポリマーや素材(黄色丸部分)の生産を支えているため、近くに位置しています。

各企業における研究開発テーマごとの出願件数を比較する

自社の研究開発テーマを選定する際、自社・他社の特許出願数の比較が必要です。

パテントマップを用いて状況を可視化することで、経営層をはじめとした社内の関連部署へ各テーマにおける、研究開発の着手・継続の可否を提案できます。

研究開発テーマと特許出願数をもとにパテントマップを作成する際、バブルチャートがよく使われます。

出典:2007年4月 特許庁 知財戦略事例集

上図は、自社とA〜C社における、a~e事業に関する特許出願件数を示したバブルチャートです。

チャート化をすると、他社に比べ自社がどの事業において知財権の観点から有利であるかが分かります。

もし研究開発部門が、e事業に関する発明をし事業化・特許出願を行いたいと申し出た場合、出願件数からはe事業に注力することは好ましくないと提案ができるでしょう。

自社による発明の実施の有無を確認する

権利化された特許出願を保持するためには、年金を納付する必要があります。

この年金は納付期間が長くなるほど高くなりますので、特許権が年金納付に値するかを評価すべきです。

発明を評価する際に、例えば、下表を作成することで可視化できます。

出典:2007年4月 特許庁 知財戦略事例集

横軸が自社の実施有無、縦軸が他社の実施有無です。

この表を用いれば

  • 自社・他社ともに実施:AC(左上)
  • 自社実施、他社非実施:AD(左下)
  • 自社非実施:他社実施:BC(右上)
  • 自社・他社ともに非実施:BD(右下)

の大きく4つに分類できます。

評価したい特許権の実施の有無を明確にすると、権利を保持すべきかを評価しやすいでしょう。

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特許ポートフォリオの活用方法。知財戦略への役立て方【事例】

パテントマップ作成の次のステップが自社特許権の活用方法の検討(IPランドスケープ)です。

特許権は

  • ライセンスなどによる収益の獲得
  • 自社が注力している事業への他社参入防止
  • 自社の新規事業への参入

などにより活用されます。

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保有している特許権により得られる収益・必要性を検討する

保有している特許権を活用すれば、さらなる利益を生み出せる可能性があります。

権利化されている特許のうち、自社により利用されている割合は50%程度です。残り約50%の特許権を、自社が利用しなければ価値がないのかと言えば、そうではありません。

自社実施以外の特許権を活用した収益の得方として挙げられるのは

  • ライセンス契約
  • 損害賠償請求

などです。

ライセンス契約を締結することで、自社が知財権を利用しなくとも収益を上げられます。

例えば、ユーザーの興味に応じたエンタメコンテンツを提案サービスを提供しているTiVo株式会社は、特許ポートフォリオをソニー株式会社に提供する契約を締結しています。

このように、大手企業が他社からライセンスを受けたり、他社特許を買収したりするケースは少なくありません。

また損害賠償請求は、数百億円を動かすこともあります。

直近では、日本製鉄株式会社が自社の特許をめぐり、トヨタ自動車株式会社などに対し200億円の損害賠償請求をしています。

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他社の新規参入を妨げる

自社の事業を継続的に行うためには、自社の商品・サービスのアップデートだけでなく、競合他社の参入を妨げることが重要です。

その方法として

  • 自社技術と関連性の高い出願を行う
  • 他社の周辺技術に関する出願を行う
  • 競合他社と連携し有効活用できる特許権を増やす

などが挙げられます。

自社と関連性の高い出願を行う(自社包囲網の強化)

より多くの権利で自社の商品・サービスを保護すれば、継続して事業を行いやすくなります。

一つの商品・サービスに対し、一つの特許権を取得していればよいわけではありません。

保有している特許権と関連性のある出願を行えないか、検討してみるとよいでしょう。

上述した旭化成のパテントマップからも読み取れるように、注力している事業においては、複数の特許出願を行う場合がほとんどです。

こちらの記事で、実際包囲網を作ったことでj数十億稼いだ実例を紹介しています。

他社の周辺技術に関する出願を行う(他社包囲網の妨害)

他社が今後実施しそうな技術に関する特許出願を行えば、他社の事業展開の促進を妨げられます。

この際に必要となるプロセスが、他社の特許出願に関するパテントマップの作成です。

もし競合他社が旭化成株式会社であれば、上述したパテントマップを作成・解析し、次に彼らがマップのどのあたりに特許出願を行うか検討する、といった戦略を実践します。

競合他社と提携し有効活用できる特許を増やす

利用したい自社の特許権があるのに、他社の特許権によって事業展開を妨げられているというケースもあります。

その場合に行えるアクションの一つが、互いの特許権の利用を許諾する、クロスライセンスです。

株式会社コロプラと株式会社カプコンは、クロスライセンス契約を締結しています。

契約により開発の自由度が飛躍的に向上するため、これまでには実現しえなかった魅力的なコンテンツづくりが可能となるのです。

新規市場への参入を検討する

新規市場への参入を検討する際にも、保有している特許権が指標の一つとなります。

権利により自社の商品・サービスを保護していなければ、容易に他者に模倣されてしまうため、新規事業への参入の準備が十分であるとは言い切れません。

例えば、スマートフォンなどで有名なApple社は、自動車の自動運転に関する特許権を保有しています。

Apple社において自動車の自社開発を検討する際、この特許権が事業着手の判断材料となりえます。

まとめ

特許出願は、権利化だけすればよいわけではなく、それをいかに活用するかが重要です。

また、特許権の価値を評価するために、特許ポートフォリオによる管理、パテントマップによる可視化、IPランドスケープによる活用方法の検討が不可欠です。

特許庁がIPランドスケープの活用を推進しており、今後ますます企業経営における知財権の価値が重要視されるでしょう。

ぜひ本記事を、自社の保有している特許権を見直す際の参考にしてみてください。

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