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任天堂が『パルワールド』を提訴。今の状況をまとめてみた

2024年9月19日、任天堂株式会社と株式会社ポケモンが、『Palworld/パルワールド』というゲームを開発・提供する株式会社ポケットペアを、自社の特許権を侵害しているとして提訴したことを発表し、大きなニュースとなりました。

パルワールドは発売当初(2024年1月)からゲーム内に登場するキャラクターのデザインがポケモンに似ていることで物議をかもしましたが、そこから8ヶ月が過ぎ、訴訟となりました。

今回は記事執筆時点(2024年9月26日)で分かっていることをまとめて紹介していきます。

ちなみにこちらの記事↓では、ポケットペアの出願状況など、同社の知財活動はどんな状況なのか?を調査&紹介しています。ぜひ一緒にご覧ください。

パルワールドで有名な株式会社ポケットペアの知財活動状況

そもそも『Palworld』ってどんなゲーム?

Palworld(パルワールド)は2024年1月19日に発売開始された、株式会社ポケットペアが開発・提供をする、オープンワールドRPGです。

不思議な生物「パル」と、ときにのんびり暮らし、ときに狩りや捕獲をし、ときに建築をさせたりして、謎の島でサバイバル生活をしていくゲームとなっています。

パルのキャラデザインや世界観がポケモンに似ていることが話題になりましたが、ゲーム性はコマンドゲームというよりサバイバルゲームで、ゲーム体験そのものはポケモンとかなり違うそうです。

公式トレーラー↓

リリース前の先行プレイ体験に基づくレビュー動画↓

今分かっている、訴訟までの経緯

Palworldは、販売開始からひと月あまりで2500万人のプレーヤー、692億円の販売額を達成したと推定されている、大ヒットゲームです。

その一方で株式会社ポケモンは、Palworldの販売開始から数日後の2024年1月25日に、自社サイトにて、Palworldの販売と知的財産権(特許権や著作権など)の侵害について調査をしたうえで、対応をする旨の発表をしています。

なお声明でPalworldの名前は挙げられていませんが、発表時期と内容からしてPalworldについての話題であることは明らかです。

そしてこの発表の後、株式会社ポケモンと任天堂株式会社は、両社が共同で出願した複数の特許出願の一部を早期審査にかけることで通常よりうんと早く特許権を取得し、この特許権を取得した後の2024年9月19日に、特許権侵害訴訟の提起を発表しました。

そのため、この分割出願に基づく特許権が、Palworldに対して権利行使をするための特許権だと思われます。(もちろん別の特許権を行使している可能性も、十分にあります)

【関連事項の時系列】

2024年1月19日 Palworldの販売開始

2024年1月25日 株式会社ポケモンが、侵害行為について調査する旨の声明発表

2024年2月~  任天堂サイドが、分割出願や早期審査を活用し特許権を取得

2024年9月19日 任天堂株式会社が訴訟の提起を発表

同日      株式会社ポケットペアが訴訟の提起に関して声明を発表

ちなみに知財訴訟は、「あらかじめライセンス交渉を行ってなるべく訴訟に持ち込まない。そのうえでダメなら訴訟」という動きが一般的です。しかし今回は任天堂・ポケットペアいずれのリリースにも事前交渉についての発言はなかったため、交渉の有無は不明となっています。

知財訴訟の傾向については、2023年に起きたウマ娘訴訟の記事でより詳しく解説しています。

1月の声明後に、早期審査で取得された特許権の内容を解説

株式会社ポケモンと任天堂が、上述の発表後の早期審査により取得した特許権は、以下の5つです。

これらはポケモンでいうところの、「ボールを投げてポケモンを捕まえる」「ボールを投げて手持ちポケモンを場に出し、バトルをする」「ポケモンに乗って”そらをとぶ”」などに関わる機能についての権利です。

もう少し一般化して言うなら「アイテムを投げてキャラを捕獲する」「アイテムを投げて手持ちキャラをフィールドに登場させ、戦わせる」「対象キャラに乗って空中移動をする」などに関連する機能を守る権利となるでしょうか。

ここからは各特許の内容を詳しく見てみましょう。

【特許第7493117号 請求項1の構成(抜粋)】

1.第2の操作入力が行われた場合に、照準方向を仮想空間内のフィールド上に配置されたフィールドキャラクタに向けさせるとともに、第1の指標を表示させる。

2.第1の指標は、捕獲成功判定の肯定判定し易さを示す情報である。

【特許第7505852号 請求項1の構成(抜粋)】

1.第1のモードにおいて、
1-①方向入力に基づいて、仮想空間内における照準方向を決定する。
1-②操作ボタンを離す操作入力に基づいて、捕獲アイテムを照準方向に向けてプレイヤキャラクタに放たせる。
1-③捕獲アイテムがフィールドキャラクタに命中した場合、捕獲成功判定を行う。
1-④捕獲成功判定が肯定判定された場合に、フィールドキャラクタをプレイヤが所有する状態に設定する。

2.第2のモードにおいて、

2-①方向入力に基づいて、照準方向を決定する。

2-②操作ボタンを離す操作入力に基づいて、戦闘キャラクタを照準方向に向けてプレイヤキャラクタに放たせ、フィールドキャラクタと戦闘キャラクタとのフィールド上における戦闘を開始させる。

【特許第7505854号 請求項1の構成(抜粋)】

1. 第1の場面において、操作入力に基づいて、仮想空間内における照準方向を決定させ、照準方向に向けて戦闘を行う戦闘キャラクタを放つ動作をプレイヤキャラクタに行わせ、戦闘キャラクタとフィールドキャラクタとの戦闘を開始させる。
2.フィールドキャラクタと戦闘キャラクタが非戦闘状態または戦闘中における第2の場面において、
2-①操作入力に基づいて、照準方向を決定させ、照準方向に向けて前記フィールドキャラクタを捕獲するための捕獲アイテムを放つ動作を前記プレイヤキャラクタに行わせる。
2-②捕獲アイテムがフィールドキャラクタに命中した場合、捕獲成功判定を行わせる。
2-③捕獲成功判定が肯定判定された場合に、フィールドキャラクタをプレイヤが所有する状態に設定させる。

【特許第7545191号 請求項1の要約※かなり記載量が多いため】

複数の捕獲アイテムの中から選択した捕獲アイテムと、複数の戦闘キャラクタの中から選択した戦闘キャラクタとを照準方向に向けて放つ。

もしフィールドキャラクタの捕獲成功判定が肯定判定された場合は、捕獲アイテムが命中したフィールドキャラクタをプレイヤが所有する状態に設定し、戦闘キャラクタがフィールドキャラクタと戦闘可能な場所に放たれた場合は、戦闘キャラクタとフィールドキャラクタとの戦闘を開始させる

【特許第7528390号 請求項1の構成(抜粋)】

1.仮想空間内において、操作入力に基づいてプレイヤキャラクタを制御する。

2.プレイヤキャラクタが搭乗可能な複数種類の搭乗キャラクタのいずれかが選択されて搭乗指示が行われた場合、プレイヤキャラクタを選択された搭乗キャラクタに搭乗させて、移動可能な状態にさせる。
3.プレイヤキャラクタが空中にいるときに第1の操作入力が行われた場合、前記プレイヤキャラクタを空中用搭乗キャラクタに搭乗させて、空中において移動可能な状態にさせる。
4.プレイヤキャラクタが空中用搭乗キャラクタに搭乗中に、操作入力に基づいてプレイヤキャラクタを空中において移動させる。

いずれの特許権も、フィールドキャラクタの戦闘、捕獲、移動に関する特許権となっています。

ここでPalworldを見てみると、スフィアというアイテムをパルに向けて投げることで、パルを捕獲することが可能となっています。そして、このスフィアをパルに向けて構えたときに、捕獲確率が表示されるようになっています。

そのため、今回の訴訟では、この特許権における第1の指標がPalworldの捕獲率に相当し、フィールドキャラクタがパルに相当するとして、特許権の侵害を主張していることも考えられます。

スフィアと捕獲率のイメージが、とても見やすい動画&サムネイル↓

任天堂側は、なぜ著作権侵害でなく特許権侵害で提訴した?

Palworldは「なにかしらの特許権を侵害しているんじゃないか?」という内容よりも「ポケモンキャラをパクっている(著作権侵害をしている)のでは?」という内容で話題になることのほうが多かったゲームです。

今回の訴訟が、著作権侵害ではなく特許権侵害で起こされていることを不思議に思う人も少なくないでしょう。

著作権と特許権では「守る対象」が違う

まず著作権と特許権とでは、保護対象が異なっています。

著作権の保護対象は著作物です。いわば”表現されたもの”ですね。小説などが当てはまります。

その一方で、特許権の保護対象は発明です。こちらは”アイデア”を守る権利で、例えばiPS細胞技術が該当します。

【著作権法】

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

(出典:著作権法 | e-Gov 法令検索

【特許法】

第二条 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。

(出典:特許法 | e-Gov 法令検索

著作権侵害の立証は大変

任天堂側が著作権侵害を選択しなかったのは、一般的にこの種のゲームにおいて、著作権侵害の立証が特許権侵害よりも難しいからという理由が考えられます。

もしPalworldに対して著作権侵害を主張した場合、任天堂側は、パルがポケモンの複製であること、具体的には以下の要件を立証しなくてはいけません。

  • Palworldのキャラクタがポケモンキャラクタに依拠していること(参考にしているか)
  • Palworldのキャラクタがポケモンキャラクタに類似していること(本質的な特徴が似ているか)

依拠しているか否かのポイントは、既存の著作物を参考に創作されたか否かによって判断されます。また、類似か否かのポイントは、作品の本質である独自の表現が似ているか否かによって判断されます。

しかし、依拠性を立証するための証拠集めはなかなか難しいという側面があります。

特に今回は、特許権のほうが侵害されていることを立証しやすい

対して特許権侵害の場合は、Palworldが特許権の請求項に記載された要件と一致しているか否かで判断されます。

先ほど紹介した5つの特許権は、いずれもゲームの画面を確認することで侵害の可否を判断することが可能であるため、特許権侵害を立証することが容易であるとして提訴したと思われます。

まとめ

今回の訴訟は、Palworldが予想以上の売上となったこと、Palworldがキャラクタの捕獲についてポケモンのゲームと共通していたことから、Palworldの販売開始時点で特許出願している案件の請求項を、Palworldのキャラクタ捕獲システムを包含するように補正したうえで、特許権を取得したものと考えられます。

そのため、Palworldの販売開始時点では特許権侵害を提起されるような特許権はなかったものの、後発的に特許権侵害のおそれのある特許権が発生し、今回の訴訟になったものと考えられます。

このような動きは、権利保持者(今回で言えば任天堂側)の品がない横暴な行動に見えるかもしれません。ただ、このように販売後に取得した特許権により特許権侵害を提起することは、特許法上許容されており、しかも特許権侵害訴訟では決して珍しくありません

そのため、販売開始時点で特許権侵害がない場合でも、その後定期的に特許権の有無をチェックし、訴訟になる前の段階で、対応をすることも必要となります。

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