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「ウマ娘」ゲーム訴訟の行方を占う。今わかっている経緯とこれからの予想

ゲームファンにはおなじみの「ウマ娘」が特許権侵害で訴えられていることが、2023年5月17日に発表された株式会社サイバーエージェントのリリースによって判明しました。ここでは、「ウマ娘」訴訟の概要とこれからの行方を占ってみたいと思います。

今、分かっている訴訟の概要

ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」(ウマ娘)を巡り、開発元のCygamesはコナミと協議を続けてきました。

しかし協議が決裂し、コナミ側が特許権侵害を理由として、40億円の損害賠償とサービスの停止を求めて2023年3月31日付で訴訟の提起を行いました。

提訴された旨は2023年5月17日にCygamesと親会社のサイバーエージェントからそれぞれ発表されています。

現時点(2023年6月5日)時点では、対象となる具体的な特許や、訴訟の内容は明らかにされていません。つまり、この訴訟はまだ始まったばかりで、これからの訴訟の成り行きが注目されています。

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知財訴訟の傾向

ゲーム関連だけでなく、知財訴訟一般に関しての傾向として、いきなり訴訟を提起するのではなく、あらかじめライセンス交渉をおこない、できるだけ訴訟に持ち込まないという戦略がとられることがほとんどです。

つまり、特許権侵害を発見したら、まず侵害した企業に警告状を送り、協議の席に着かせます。そのうえで、折り合いがつかなければ訴訟を行うということです。

なぜかというと、訴訟は結論がでるまで時間がかかり費用も多額にのぼるからです。

例えば、期間は通常簡単なものでも数ヶ月、長いものになると年単位でかかります。また費用も、弁護士費用が賠償請求額の15~20%くらい、それに加えて賠償請求額に応じて裁判所に手数料を払わなければなりません。

訴訟の内容や経緯は最終的には公にされますから、トラブルを公にしたくないという心理もあります。そのため、訴訟はできるだけ避け、話し合いで解決するという場合がほとんどなのです。

見方を変えると、裁判所に訴訟として持ち込まれるのは氷山の一角で、その水面下ではライセンス交渉で解決した知財トラブルが無数にあるということです。また、今回のように訴訟になってしまったということは、お互いにかなり「頭にきている」(特にコナミ側が)ということになります。

対象特許を推測してみる

以前から、Cygamesが提供しているゲームは先行している他社のゲームとよく似たものが多いとの指摘がありました。つまり「完全なパクリ」とまではいえないものの、「知財的にどうなの?」というものが多くあったといわれています。

そこで、ある弁理士の先生が本訴訟の対象特許を調査したところ、あくまで推定ですが、2015年10月に取得した特許5814300ではないかといわれています。この特許はかなり強力な特許で、同様のゲームの基本特許の一つといえるものです。コナミはこの特許を根拠にして今回の訴訟を提起したのではないかと現状では考えられています。

そして自社が特許侵害しているかは、事前にある程度予測することができます。

新しいアイデアが生まれた時、このアイデアが他社の特許を侵害しているかどうかを調べることを「侵害防止調査(パテントクリアランス調査)」といいます。

普通、新しい製品を開発する際には先行する特許を避けるように開発が行われます。あくまで私見ですが、Cygamesはこの侵害防止調査を十分に行わなかった可能性が高いです。侵害防止調査を十分に行っていれば、このような事態を回避できたと考えられます。

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コナミはパテントトロールなのか?

今回の訴訟を受けて一部のネットユーザ、特に熱心なゲームユーザからは「コナミはパテントトロールではないのか?」という見方が出ています。これは、コナミが商標や特許をかなりアグレッシブに出願・取得していた時期があり、そのやり方があまり「上品」に見えなかったためです。(例えば、「商標ゴロ疑惑」や「カメラ特許」など)

パテントトロール(Patent Troll)とは、特許を所持している企業や個人が、主に訴訟を利用して他の企業や個人から特許侵害によるライセンス料や和解金を得ることを指します。また、自身が特許を活用せず、他の企業や個人から特許権を侵害したと主張して訴訟を起こすことが一般的です。

パテントトロールは多くの場合、個人発明家や小さな企業の特許権を安く買い取り、お金を持っている大企業に対して和解金やライセンス料を要求します。

コナミは、今回の対象特許技術を実際に使っています(実況パワフルプロ野球、いわゆるパワプロ)から、パテントトロールとまではいえないでしょう。

多くのゲームユーザーは、それぞれお気に入りのゲームメーカがあり、そのメーカに対する思い入れが強くあります。そのため、競争の激しいゲーム業界において、いずれかのゲームメーカに肩入れしてしまうことが多いと考えられます。それがアンチ・コナミ派から「コナミはパテントロールではないのか?」という誤解につながっているのではないかと思われます。

実際、知財の世界では大量の出願を行う企業はいくらでもありますし、大手企業では、年間100件や200件の出願ではむしろ少ない方だと考えられます。

なお日本における一般的なパテント・トロールのイメージはあまり良くないが、違法ではありません。パテントトロールの要求が「脅して」要求するように見えるために、イメージが悪くなっているのです。

しかし違法でない以上、犯罪として取り締まることはできません。またパテントロールは強気で警告状を送ってきますが、送られたほうが毅然とした対応をとり「訴訟も辞さない」という覚悟があれば、「この企業からは金がとれない」と判断され、警告状を取り消すという可能性もあります(もっとも、かなりタフな相手ですが)。

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仮にCygamesが敗訴したら、ウマ娘にはどんな影響が?サービス終了する?

以上、見てきたようにCygames側がかなり不利です。そのため、完全な敗訴となった場合、サービス終了の可能性もあります。

Cygamesがサービスを続けるための方法は2つです。

  1. ゲームの仕様を変更して、コナミの特許に抵触しないようにする
  2. いくらかの和解金を支払って、コナミからライセンスを得る

「1.ゲームの仕様を変更する」方法は、ソフトウェアの変更に手間と時間がかかります。そのうえ、変更後の仕様が他の特許に抵触する危険性もあり、慎重に行わなわなければなりません。仕様の変更に伴ってユーザーが離れてしまう可能性もあります。そのためCygamesの「面子」を保つにはいい方法ですが、その割に時間とコストがかかります。

一方「2.ライセンスを得る」方法は、原則として仕様の変更は必要ないですが、多額の和解金を支払う必要性があります。しかし「ウマ娘」を続けるためには最も手っ取り早い方法だと考えられます。裁判官もおそらくこちらの方法を勧めてくるはずです。

なお多くの知財訴訟の和解では、損害賠償の金額も減額されることが多いです。任天堂・コロプラの訴訟も和解金は減額されています。つまり、今回の和解金は40億円ではなく、それよりも低い金額で和解がなされると考えられます。

要は、Cygames側がどれだけ「大人」になれるかということだと思います。

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もしもコナミが敗訴したらどうなるか

一方、コナミ側が敗訴した場合のことを考えてみましょう。

上述した対象特許の出願日は2013年の5月31日です。そして特許権の存続期間は最大で出願日から20年です。すなわち、この対象特許は2033年5月31日をもって切れてしまいました。したがってそれ以降はどのゲーム会社でも自由に使うことができます。

つまり、負けたとしても早いうちに権利ははなくなってしまうので、訴訟費用を負担する必要はありますが、それ以外の損害は発生しないと考えられます。

なお今回の訴訟は、対象特許の存続期間内に発生したコナミ側の損害をさかのぼって請求していますから、十分に訴訟の意味はあるということになります。

まとめ

以上、「ウマ娘」訴訟の現状について見てきました。

ちなみに「ウマ娘」は実際の競馬業界と関連もありますが、訴訟に関してはあまり影響する事柄ではないでしょう。

裁判官は事実を可能な限り客観的に分析しています。あくまでも「特許侵害の有無」で判断されるので、競馬業界のイメージによって裁判官の心証が変わるということは考えにくいです。

そして訴訟になってしまったトラブルは「かなり厄介」な場合が多いです。

ましてや、判決がでるまで戦うのは普通の人にとってかなりしんどいです。知財の場合、そのような事態を避けるために弁理士がいるわけですから、もっと気軽に弁理士を頼ってみてください。

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